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【リョヤス】駆け落ち

江ノ電に乗るリョータとヤスの話。

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「ちょっと、どこに行くの」

反対のホームに向かうリョータに慌てて声をかける。
その足取りが余りにも自然なものだから、気付かずにそのまま一人で改札に向かうところだった。

「な、フケようぜ」

全く悪気のない顔でそんな提案を持ちかけてくる。こいつは学校をなんだと思っているのだろう。

「ダメだよ。ほら、そんなこと言ってないで早く行くよ」
「だって始業式なんか出てもしょうがねーだろ。どうせ校長のつまんねー話聞くだけだぜ?」
「うーん…じゃあ学校に行って、始業式だけサボればいいじゃん。出席はしないと」
「そりゃあそうなんだけどよ」

リョータはポリポリと頭をかきながら、うーんと唸った。俺にどう説明すればよいのか考えあぐねているようだった。
やがて考えをまとめるのが面倒になったのか、なんつうかさ、とはにかみながら答えを出した。

「どっかに行きたい気分なんだよ」




ガタン、ガタン。

音に合わせて揺れる体と、それに反して滑らかに流れていく景色。通勤時間を過ぎた上に平日であるためか、電車内にほとんど乗客はいなかった。
結局、こうしてリョータに付いてきてしまったわけだが、確かに今日は遠出したくなるような気持ちのいい天気である。
とはいっても、きっと部活には出るつもりであろうから、そこまで遠出はせずに帰るのだろうと踏んでいる。

「なんか、駆け落ちみたいだな」

ぽつりと隣の人物から呟かれた言葉に、普段だったら呆れているところだ。だが、今は不思議とそんな気分にはならなかった。リョータの顔を横目でチラリと見やり、ぼんやりと「確かにそうかもなぁ」と思った。

「お前がこのまま帰ってこなかったら、お前ン家大騒ぎだろうな」
「俺はいいよ。どうせ怒られるのはリョータだし」

そう、それがおかしいんだよ!と、声を荒げながらリョータがこちらに体ごと向き直した。

「何でいつも俺が勝手にヤスを振り回してることになってんだっつーの。昔っからそうだよな。どんだけ俺らが説明しても、いつの間にか俺のせいになっててさ。よくオフクロにシメられた」
「ほとんど同じようなものだろ。まぁ、あとは日頃の行いの差かな。」
「納得いかねー…」

すっかりふてくされてしまったその顔が、小さい頃に母親から叱られている時と全く同じであったため、俺はつい吹き出してしまった。いくら髪を染めたりピアスを開けたりして見た目が変わっても、中身は何も変わっていないのだと改めて思う。

「なに笑ってんだよ」
「いや、リョータは変わらないなぁと思って」
「ヤスだって人のこと言えねーじゃねーか」
「そうかな?」
「そうだよ」

すると、リョータは俺の顔を両手で挟み、目尻の辺りをぐいっと親指で引っ張った。元々細い目がさらに細くなり、リョータの顔さえまともに見えなくなった。

「このほっそい目もちっちぇー身長も、何も変わってねー」

ケラケラとリョータの笑い声が聞こえる。

「それは外見の話だろ。俺が言ってるのは中身の話だよ。というか、身長に関してはリョータに言われたくないんだけど」

目尻から親指が離され、ようやく視界が元に戻った。思っていたよりも近い距離にリョータの顔があったことを知り、少しギョッとする。距離をとろうとしても、俺の顔面はリョータの両手によってガッチリと掴まれている。
真剣な顔をしているものだから、もしかしたら身長の話をして怒ったのかもしれないという考えがチラリと頭をよぎった。しかし、身長の話をし出したのはリョータの方だし、俺が言ったぐらいで怒るとは思えない。

どうしたのだろうと戸惑っていると、ふいにリョータはふっと笑い、両手を俺の顔から離した。

「中身も変わってねーよ。本当に、ちっとも。昔のままだ」

そうとだけ言うと、リョータは体を俺の方から背け、視線を再び電車の窓に移してしまった。
俺もそれ以上その話題は続けずに、同じように視線を窓へと移した。

すでに住宅街を抜け、視界いっぱいに海が広がっていた。太陽の光が反射し、キラキラと輝いている。
しばしその光景に目を奪われていると、俺たちを乗せた鉄の塊はあっという間にまた住宅街へと潜り込んでしまった。
見るものが無くなってしまったのでチラリとリョータの方を見やる。すると、タイミングがいいのか悪いのか、ちょうど目がバッチリ合ってしまった。
しかし、困ったことに特にこれといって話すことはない。かといって、このまま視線を逸らすのもなんだか気まずい気がする。それはリョータも同じようであった。
妙な沈黙がひとしきり流れた後、ふいにリョータがためらいがちに口を開いた。


「なぁヤス」
「なに?」
「何で俺が駆け落ちみたいだって言ったときに否定しなかったんだよ」
「なんで?」
「いや、いつもだったら呆れてるところなのによ」

そうだねぇ、と俺は視線を宙にさまよわせた。特にこれといった理由は無かったのだが、それで納得するのだろうか。しかし、嘘を吐くのも気が引ける。結局、ありのままを言うことにした。

「確かにいつもだったら呆れてたと思う。でも、なんか今日は『そうかもなぁ』って思っちゃったんだよね」
「それだけか?」
「それだけだよ」

そうかとリョータは意外にあっさりと引き下がった。
そのことに俺はホッとしたが、静寂が続くにつれ、なにやらモヤモヤとした気分になっていった。さっきの答えでは、何かが足りない気がする。
肝心なことが伝わっていないのではないか。

「言っておくけど」
「なんだよ」
「お前が帰ってこなかったら…ってリョータが言って、俺は別にいいよって言ったじゃない。あれは本当にそう思った。リョータとなら、俺はどこにでも行くよ」

リョータはポカンと口を開けて俺を見た。案の定、大事なところには気づいていなかったらしい。

「でも、できれば親の了承は取ろうな」

しばらくリョータは動きを止めていたが、やっと口角を微かに上げて渇いた笑い声を漏らした。
そして返答を迷うように、あー、えっと、その、と何やらブツブツと言っていたが、ふと何かに気付いたようにあっと声を上げた。なぜかプッと吹き出した後、笑いながら俺に答えを返した。

「それじゃ駆け落ちになんねーよ」







『ご乗車お疲れ様でした。終点の鎌倉に到着です。えーお出口、左側となります。足元に十分ご注意の上お降りください…』



ギィィと大きな金属音をたて、電車は止まった。
よっと声を出して面倒そうに立ち上がったリョータの後を追い、俺も電車から降りる。ずっと座りっぱなしだったせいか、背筋を伸ばすとスッキリとした気分になった。
俺と同じようにリョータも背筋を伸ばすと、名残り惜しそうに今来たばかりの駅を見渡した。どうせここまで来たなら遊んでいきたい気もするが、そうなっては午後からの部活に間に合わなくなる可能性がある。それをリョータもさすがに分かっているようだった。

「んじゃ、帰るか」
「うん」

朝と同じように、改札を抜けることなく反対側のホームへと向かう。
こうして、俺たちの33分間の駆け落ちは幕を閉じた。





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リョヤスの日のために書き始めたのに、結局こんなに遅くなってしまいました。ぐぬぅ。
江ノ電乗りたいです。
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主に福田と仙道に狂ってます。

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