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【牧宮】ジェントルマン

悩む牧さんの話。

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「宮が口をきいてくれない」

尊敬する部活の主将が神妙な面持ちで相談があると言ってきたので、一体何があったのだろうと思いきや、口から出てきたのは犬も食わないような代物だった。





薄々おかしいとは感じていたのだ。
バスケ部のことで相談があるのなら、後輩である自分にではなく同学年の人間にするのが普通だろう。
それに第一、何かあった時に彼が相談するのは、さっき出てきた“宮”と呼ばれる人物だ。

彼がその人に相談しないということは、その人には言えないような問題なのだろう。ということは、その人自身に関する問題である可能性が高い。
そこまでは大体察しがついた。

だが、なぜそれでわざわざ自分のところにやってきたのか。
他の三年生にも聞かれたらマズイことなのか。

そう考えるとあまり軽い問題ではないのかもしれないと少し身構えたのだが。



「そういうのは高砂さんや武藤さんに相談した方が早いんじゃないですか?」
「いや、高砂たちに聞いたら『神の方が経験豊富だろうから、あいつに聞いた方がいい』と言われてな」


そこでようやく合点がいった。
あの人たち面倒ごとを俺に押し付けたな、と。

大体、あの人たちが俺の恋愛事情など知る由もないのだ(その情報を鵜呑みにしてしまった人間が目の前にいるのだが)。


さて、これで相談してきた相手が後輩ならば適当に流してしまえたのだが、お世話になっている先輩のことはさすがに無下にはできない。
本来ならあまり関わりたくないが、仕方がないので痴話喧嘩に首を突っ込むことにした。



「……で、宮さんが怒ってる原因は何なんですか?」
「分からん」
「じゃあ心当たりは?」
「無い」

清々しいくらいキッパリと言い切る姿を見て、心の中で喧嘩相手に少し同情する。

これで相手が感情的、もしくは気難しい人間なら「そうなんですか、困りましたね」と一緒に頭を捻っただろう。しかし、彼が今怒らせている相手は、普段は温厚で思慮深い人物である。したがって、その人が怒るとすれば、この目の前の人物が何かやらかしたということは明白なのだ。

だが、どうやら本人には自覚が無いらしい。
自覚が無いというよりも、自分がやっていることにハッキリとした自信があるのだろう。その性格こそが神奈川No.1プレイヤーに登り詰めることが出来た要因の一つなのだろうが、こと恋愛に関しては大きな障害だろうなぁとしみじみ思う。

とにかく、どうにかして自覚の無いこの人から原因を探し出さなければならない。

「じゃあ宮さんが口をきいてくれなくなる前日はどうだったんですか?」
「確か…その日は日曜だったから、宮の勉強が終わるのを待って、二人で昼食を食べに行った」
「その時に何か宮さんに変わった様子は無かったんですか?」
「いや、無かった」
「うーん…じゃあ宮さんがどんな表情してたか覚えてます?」
「食事してる時は笑ってたぞ」
「いや、それ以外の時もですよ」

うーんと腕を組み、目をつぶって考え込んでしまった。心当たりがないと本人が思い込んでしまっている以上、その時の様子を思い出せと言っても無理があるのかもしれない。
仕方がないので違う方向からアプローチしてみるかと思い、口を開こうとした瞬間、「あっ」と牧さんが声を上げた。

「…そういえば」
「何かあったんですか?」
「確か……会計が終わった後に機嫌が悪くなっていたような…」

会計、か。どういうことだろう。
さすがに払わなかったというわけではあるまいと思いつつ、詳しく状況を聞いていくことにする。

「会計の時に何かあったんですか?」
「いや…何もなかったぞ。いつもどおり俺が払って、そのまま店を出た」





ちょっと待て。
今、何かおかしい言葉が聞こえた気がする。


「…すいません、もう一度言ってもらっていいですか」
「ん?そのまま店を出た」
「そこじゃないです、その前」
「いつもどおり俺が払って」
「そこです、そこ。おかしくないですか」
「なにがだ」
「いや……いつも食事代は牧さんが払ってるんですか?二人分?割り勘じゃなくて?」
「恋人の分まで払うのは当たり前だろう」

しれっと言い放つ姿を見て、あぁこの人は女にモテるだろうなぁと思った。だが、この人は自分が付き合っている人間のことを分かって言っているのだろうか。


「………あの、牧さん」
「なんだ」
「もしかして、宮さんと歩く時って車道側を歩いてますか…?」
「あぁ、そうだな」
「宮さんの荷物持ってあげたり…」
「おう」
「先にドア開けてあげたり…」
「おう」
「冷房効いてるところで体を気遣ってあげたり…」
「全部やってるな。それがどうかしたのか?」

きょとんとした様子で俺に質問の意図を聞いてくる牧さんを見て、この人は無意識にそういうのをやってるんだろうなぁと尊敬を通り越して呆れてしまった。


「牧さん自身も分かってらっしゃることでしょうし、当たり前だろって思うでしょうけど、一言言っていいですか」
「あぁ」
「宮さんは男です」


俺の言葉を聞いて、「解せぬ」とでも言いたげな顔をしながら
「そうだな、それがどうした?」
と返してくる牧さんの姿を見て、この場にいない喧嘩相手に心の中で「頑張ってください、宮さん」とエールを送った。




****************************************************
女心は分かるけど、男心は分からない牧さん。



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きりん
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自己紹介:
主に福田と仙道に狂ってます。

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